神戸地方裁判所 平成2年(ワ)207号 判決 1991年3月26日
原告
林優
右法定代理人後見人
林要次
原告
林要次
原告
林信子
右原告ら訴訟代理人弁護士
大塚明
右同
神田靖司
右同
戎正晴
右訴訟復代理人弁護士
中村留美
被告
三藪茂男
被告兼被告三藪茂男補助参加人
安田火災海上保険株式会社
右代表者代表取締役
後藤康男
右被告兼補助参加人安田火災海上保険株式会社訴訟代理人弁護士
安藤猪平次
右同
内橋一郎
主文
一1 被告三藪茂男は、原告林優に対し、金七五六万六二四三円、同林要次に対し、金四九五万円、同林信子に対し、金三八五万円及び右各金員に対する平成元年六月一〇日から各支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。
2 原告らの、被告三藪茂男に対するその余の請求をいずれも棄却する。
二 原告らの、被告安田火災海上保険株式会社に対する請求を、いずれも棄却する。
三 訴訟費用中原告らと被告三藪茂男間分は、これを二分し、その一を原告らの、その一を被告三藪茂男の各負担とし、原告らと被告安田火災海上保険株式会社間分は、全部原告らの負担とする。
事実
以下、「原告林優」を「原告優」と、「原告林要次」を「原告要次」と、「原告林信子」を「原告信子」と、「被告三藪茂男」を「被告三藪」と、「被告安田火災海上保険株式会社」を「被告保険会社」と、各略称する。
第一 当事者双方の求めた裁判
一 原告ら
1 被告三藪は、原告優に対し、金二〇〇〇万円、同要次に対し、金五五〇万円、同信子に対し、金四五〇万円及び右各金員に対する平成元年六月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。
2 被告保険会社は、原告らの被告三藪に対する右請求訴訟の判決が確定したとき、原告優に対し、金二〇〇〇万円、同要次に対し、金五五〇万円、同信子に対し、金四五〇万円及び右各金員に対する平成元年六月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。
3 訴訟費用は、被告らの負担とする。
二 被告ら
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告らの負担とする。
第二 当事者双方の主張
一 原告らの請求原因
1 別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)が発生した。
2(一)被告三藪は、本件事故当時被告車の保有者であった。
よって、右被告には、自賠法三条に基づき、原告らが右事故により被った損害を賠償する責任がある。
(二)(1) 被告保険会社は、被告三藪との間で、次の内容の損害賠償責任保険契約を締結していた。
保険の種類 対人賠償責任保険・支払限度額一人金一億円
被保険者 被告三藪
被保険自動車 被告車
保険期間 昭和六三年一二月五日から昭和六四年一二月五日まで
直接請求 被告保険会社は被保険者が損害賠償義務を負うときは、損害賠償請求権者に対して直接支払義務を負う。
(2) 被告三藪が原告らに対して本件事故に基づく損害賠償義務を負っていることは、右(一)において主張したとおりである。
よって、被告保険会社は、右保険契約に基づき、原告らに対して保険金支払義務を負っている。
3 原告らの本件事故に基づく損害
(一)亡由起子分
(1) 死亡による逸失利益 金三五五二万五四九〇円
算定の基礎資料
(a) 収入 二六才女子労働者の平均賃金月額金一九万二五〇〇円
(b) 就労可能年数 四一年(新ホフマン係数21.97)
(c) 生活費控除 三〇パーセント
(19万2500円×12)×0.7×21.97=3552万5490円
(2) 死亡による慰謝料 金一二〇〇万円
(3) 亡由起子の損害合計額 金四七五二万五四九〇円
(二)相続関係
原告優は、亡由起子の子であるところ、亡由起子の右損害金四七五二万五四九〇円の賠償請求権を相続した。
(三)原告要次・同信子分
原告要次、同信子は、亡由起子の父母であるところ、本件事故に基づき、次の損害を被った。
なお、原告要次は、原告優の後見人である。
(1) 原告要次
(a) 葬儀費用 金一〇〇万円
(b) 慰謝料 金四〇〇万円
(2) 原告信子
慰謝料 金四〇〇万円
(四)弁護士費用 原告優分 金二〇〇万円
原告要次 同信子分各金五〇万円
4 損害の填補
原告優は、本件事故後、自賠責保険金金二五〇〇万一六〇〇円の支払いを受けた。
そこで、右保険金金二五〇〇万一六〇〇円を本件損害の填補として原告優の右損害合計金四九五二万五四九〇円から控除すると、右控除後の右損害額は、金二四五二万三八九〇円となる。
5 結論
よって、原告らは、本訴により、被告三藪に対し、原告優において本件損害の内金二〇〇〇万円、同要次において同損害金五五〇万円、同信子において同損害金四五〇万円及び右各金員に対する本件事故の翌日である平成元年六月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の、被告保険会社に対し、原告らの被告三藪に対する右各請求の判決が確定したときは、原告優において右同金二〇〇〇万円、同要次において右同金五五〇万円、同信子において右同金四五〇万円及び右各金員に対する右同平成元年六月一〇日から支払ずみまで右同年五分の割合による遅延損害金の、各支払いを求める。
二 請求原因に対する被告らの答弁及び抗弁
(なお、被告三藪は、同人の補助参加人被告保険会社の主張を全て援用。)
1 答弁
請求原因1、2(一)、(二)(1)の各事実は認める。同(二)(2)の主張は争う。同3(四)中原告らが本訴提起のため弁護士である原告ら訴訟代理人らに訴訟委任したことは認めるが、同3のその余の事実は全て不知。同4中原告優が本件事故後自賠責保険金金二五〇〇万一六〇〇円の支払いを受けたことは認めるが、同4のその余の事実及び主張は争う。同5の主張は争う。
2 抗弁
(一)被告三藪関係
好意同乗
(1) 亡由起子は、本件事故当時、被告三藪の経営する飲食店の手伝いをしていた。
しかして、亡由起子の右飲食店への通勤は、毎日被告三藪運転の車両によって行われており、本件事故も、被告三藪が当日の営業終了後亡由起子を右飲食店から同人の自宅まで送って行く途中で発生したものである。
しかも、亡由起子は、右事故当日、被告三藪が酒気を帯びていることを知りつつ、あえて被告車に同乗し、右事故に遭遇した。
(2) 右事実から、本件は、所謂好意同乗の場合に該当する。
よって、亡由起子の本件事故による損害は、大幅に減額されるべきである。
(二)被告保険会社関係
(1) 自動車保険約款の免責約款による免責
(a) 被告三藪と亡由起子は、本件事故の約四年前から、神戸市須磨区横尾九丁目二番地公団住宅六号棟三〇二号室において同棲し、長期間事実上の夫婦として共同生活を営んで来た。
したがって、右両名は、右事故当時、内縁関係にあった。
(b) 被告保険会社が被告三藪と締結した本件自家用自動車保険(PAP)の普通保険約款第一章賠償責任条項第一〇条(填補しない損害―その2対人賠償。以下、本件免責約款という。)には、次のとおり定められている。
被告保険会社は、被保険自動車で被保険者の父母、配偶者または子の生命・身体が害された場合に、それによって被保険者が被る損害を填補しない。
(c) 本件免責約款中の配偶者には、法律上の配偶者(民法七二五条所定の届出のある配偶者)と事実上の配偶者(事実上の婚姻関係にあるが、戸籍上の届出をしていないため法律上の配偶者とされていない者。以下、内縁関係上の配偶者という。)の双方を含むと解すべきである。
その理由は、次のとおりである。
ⅰ 現行法の下において、内縁関係にも、公益上支障がない限り、法律上の夫婦に適用される法律を準用しこれと同等に保護すべきであると解されている。
即ち、法律上の夫婦間の、公益的要請にかかわる身分的効果に関する諸規定は別として、財産的効果に関する諸規定(同居・協力・扶助の義務、共同生活費の分担義務等)は、内縁関係にも準用されている。
しかして、自動車保険を免責とするか否かは、すぐれて財産的効果に関する問題であって、身分関係の成否に関する公益的問題ではないから、本件免責約款の解釈においても、法律上の配偶者と内縁関係上の配偶者とを同等に取扱うのが合理的である。
ⅱ 本件免責約款の制定趣旨は、有責にした場合の次の各不都合さを未然に防止する点にある。
イ 夫婦間には相互扶助義務があり、夫婦は経済的に同一体であるから、保険を適用しなくても生活上の不都合はなく、逆に保険を適用すると、加害者本人が直接利得する可能性が生じる。
ロ 夫婦は相互に家庭生活を円満に保持すべき義務を負うところ、保険を有責にすると、保険金獲得目的の夫婦間訴訟等を誘発し、家庭における平穏を破壊するなど不都合な事態が生じる。
ハ 夫婦間の示談や訴訟は、馴合いを助長し、道徳的危険(所謂モラルリスク)を生じせしめる。
ⅲ 夫婦間の相互扶助義務や家庭生活の円満保持義務は、前記のとおり法律上の夫婦のみならず内縁関係上の夫婦にも認められる義務であるし、右道徳的危険も実質的に夫婦生活共同体が形成されていることから生じる危険である。
したがって、本件免責約款の適用に際しては、夫婦間における婚姻届の有無はさしたる問題ではなく、その夫婦に実質的夫婦生活共同体が形成されているか否かが重要な関心事となる。
(d) 以上、現行法下における内縁関係上の配偶者の取扱、本件免責約款の制定趣旨等に基づけば、右免責約款中の配偶者には、法律上の配偶者だけではなく内縁上の配偶者も含まれると解する以外にない。
仮に、右解釈を採らず、右免責約款中の配偶者には内縁関係上の配偶者が含まれないと解するならば、同一の夫婦生活共同体に対し、婚姻届を怠っている場合を有責とし、婚姻届を済ませている場合を免責とするが如き保険の運用を許容する結果となり、著しく不合理である。
よって、本件事故に右免責約款が適用される結果、被告保険会社には、原告らに対する本件保険金の支払義務がない。
(2) 好意同乗
仮に、右抗弁(1)が認められないならば、亡由起子の本件事故は所謂好意同乗の場合に該当するから、被告三藪の抗弁(好意同乗)を引用する。
三 抗弁に対する原告らの答弁
1 被告三藪関係
抗弁事実中亡由起子が本件事故当日被告三藪運転の被告車に乗車して帰宅する途中で右事故に遭遇したこと、被告三藪が右当日飲酒したことは認めるが、その余の抗弁事実は否認し、その主張は争う。
被告三藪は、酒には強い方であり、右当日の飲酒量は呼気検査において0.1ミリグラムの微量であったし、亡由起子が被告三藪に特に酒を勧めた訳ではない。しかも、被告車で帰るといったのは、被告三藪の方である。
2 被告保険会社関係
(一)抗弁(1)について
(1) 抗弁事実(a)中亡由起子が本件事故当時被告三藪と同棲生活を送っていたこと、同(b)の事実は認めるが、その余の抗弁事実は全く否認し、その主張は争う。
亡由起子と被告三藪との右関係は、夫婦としての社会的実体を全く備えていなかったから、未だ内縁関係にまで至っていない。
(2) 仮に亡由起子と被告三藪との右関係が内縁関係であるとしても、本件免責約款中の配偶者に内縁関係上の配偶者は含まれないと解すべきである。
その理由は、次のとおりである。
(a) 現行法の下において、法律上配偶者とは婚姻届のなされた者のみを意味し、右届出のない者は法律上配偶者とはいえない。
ただ、現行法(親族法・不法行為法)において、配偶者に関する規定が内縁関係に適用もしくは準用される場合があることは確かである。
しかしながら、それらは、いずれも、内縁関係にある者をも法律上の夫婦と同様に保護する必要がある場合等に、当該規定を内縁関係に適用もしくは準用しているのであって、配偶者の文言の意義そのものとして内縁関係上の配偶者を含ませている訳ではない。
法律上配偶者なる文言に内縁関係上の配偶者を含ましめる必要がある場合には、現行各種年金法・労働災害補償法の如く、「婚姻の届けをしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあったものを含む」等明示の規定が設けられている。
右各規定の存在は、配偶者の法的意義としては内縁関係上の配偶者を含まないことを端的に示すものである。
本件免責約款における配偶者なる文言も、その例外ではない。
(b) 被告保険会社の主張する本件免責約款の制定趣旨は、自賠責保険において夫婦間事故の場合保険者を免責にすべき論拠として述べられたところと同一である。
しかして、右論拠に理由がないことは、最高裁判決(昭和四七年五月三〇日第三小法廷判決民集第二六巻第四号八九八頁)が判示するとおりである。
そして、右理は、自動車普通保険(以下、単に任意保険という。)においても何ら変わるところはない。
(c) 保険契約は、一般的に力関係に大いなる差のある当事者間(保険会社と被保険者たる大衆)で約款にしたがって締結させる附合契約であり、一方当事者(被保険者)は契約内容に対する自由を全く有しておらず、他方当事者(保険会社)の一方的作成にかかる約款にしたがって契約を締結せざるを得ない。
このような一方的契約においてその公正が担保されるには、保険約款の条項自体が公正であることは勿論、右約款の解釈もまた公正に行われねばならない。
この観点から、保険約款の解釈に当たっては、免責約款を被保険者に不利益を与える方向で類推・拡張解釈することは許されないとの「免責約款における制限的解釈の原則」、約款に不明瞭で疑しい字句があるときは、作成者である保険会社に不利益に、被保険者に利益に解釈すべきとの「作成者不利の原則」等の一般原則にしたがうべきことが要求されている。
本件免責約款の解釈も右一般原則にしたがって行われねばならないことは、当然であるところ、被告保険会社主張のように右免責約款中の配偶者に内縁関係上の配偶者も含まれると解するならば、それは明らかに右一般原則に反するというべきである。
被告保険会社が主張する右解釈に合理的的理由があるならば、それが免責約款に関するものである以上、前記年金法のように明確な約款条項を置くべきである。
右明確な約款条項もないのにもかかわらず、類推解釈によって右免責約款の文言を被保険者の不利益に解釈することは、右一般原則に反し許されないというべきである。
特に、任意保険は、今日最も普遍的な保険である。現代社会においては、車両を運行の用に供しようとする者は自賠責保険のみならず任意保険にも加入すべきであって右加入はその者にとって当然の社会的責任と考えられている。
それにもかかわらず、被保険者となる右車両を運行の用に供しようとする者には前記のとおり契約締結の自由すら殆ど認められていない。
このような任意保険締結の実情をも考え合わせると、任意保険約款の解釈、とりわけ免責約款の解釈に当たっては、右一般原則の適用が最も強く要求されるというべきである。
(3) 以上の主張から、被告保険会社の抗弁(1)は、いずれにせよ理由がない。
(二)抗弁(2)について
抗弁(2)に対する答弁は、被告三藪の抗弁(好意同乗)に対する答弁と同じであるから、これを引用する。
第三 証拠関係<省略>
理由
第一原告らの被告三藪に対する各請求関係
一1 請求原因1、2(一)の各事実は、当事者間に争いがない。
2 右事実に基づけば、被告三藪には、自賠法三条に基づき、原告らが本件事故により被った損害を賠償すべき責任があるというべきである。
二原告らの本件損害
1 亡由起子分
(一)死亡による逸失利益 金三五五二万五四九〇円
(1) <証拠>を総合すると、次の事実が認められ、その認定を覆すに足りる証拠はない。
亡由起子は、本件事故当時二六才(昭和三八年一月一一日生)の健康な女性で、被告三藪の経営するサロン「うさぎのみみ」においてホステスとして稼働し収入を得ていた。
(2) ただ、本件においては、亡由起子の右サロンにおける現実の収入額につき、これを認めるに足りる証拠がない。
しかしながら、同人が右事故当時右サロンで稼働し収入を得ていたことは、右認定のとおりであるから、同人の右現実の収入額を確定するに足りる証拠がないからといって、同人の本件死亡による逸失利益を全く否定し去ることは相当でない。
このような場合には公的統計資料によらざるを得ないところ、平成元年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・女子労働者二五才〜二九才の平均賃金月額によれば、亡由起子の右事故当時における右収入額は、原告らが主張する月額金一九万二五〇〇円と認めるのが相当である。
(3) ホステスについては、その職業の特殊性から、例外的な場合を除き、ホステスとしての在職期間はさほど長期間に及ぶことがないのが通例である。
したがって、ホステスの交通事故による逸失利益の算定もその就労可能期間内に限定されるのは当然である。
しかし、本件においては、亡由起子のホステスとしての収入も、右認定のとおり専業主婦の逸失利益算定の基礎収入とする女子労働者の平均賃金相当であるし、同人は右ホステスを廃業してもその後主婦として家事処理に従事すると推認されるから、同人の本件逸失利益算定の基礎とすべき就労可能年数は、本件事故当時から同人が六七才に達するまでの四一年と認めるのが相当である。
しかして、同人の生活費控除率は、右収入の三〇パーセントと認めるのが相当である。
(4) 右認定説示を基礎として、亡由起子の本件死亡による逸失利益の現価額を、ホフマン式計算方法にしたがって算定すると、金三五五二万五四九〇円となる。(新ホフマン係数は、21.97。)
(19万2500円×12)×0.7×21.97=3552万5490円
(二) 死亡による慰謝料 金一〇〇〇万円
前記当事者間に争いのない事実及び認定各事実を総合すると、亡由起子の本件死亡による慰謝料は金一〇〇〇万円と認めるのが相当である。
(三) 亡由起子の損害合計額 金四五五二万五四九〇円
(四)被告三藪の抗弁(好意同乗)
(1) 抗弁事実中亡由起子が本件事故当日被告三藪運転の被告車に乗車して帰宅する途中右事故に遭遇したこと、被告三藪が右当日飲酒したことは、当事者間に争いがなく、亡由起子が右事故当時被告三藪の経営するサロンでホステスとして稼働していたことは、前記認定のとおりである。
(2)<証拠>を総合すると、亡由起子は右サロンへの通勤に毎日朝晩被告三藪の運転する被告車に乗車していたこと、被告三藪と亡由起子は本件事故当日も右サロンでの勤めを終えて右両名が同棲生活を送っている自宅(神戸市須磨区横尾九丁目二番地公団六号棟三〇二号)へ帰宅する途中であったこと、右両名は右途中右事故現場に至る前ステーキハウスで食事をし、その際、被告三藪がビール中ジョッキ一杯を飲んだこと、亡由起子も被告三藪の右飲酒を黙認していたこと、ただ、同人の右事故当時における飲酒量は、呼気検査で0.1ミリグラムであったこと、右両名が右食事を終えて再び帰宅しようとした際、被告三藪が被告車で帰ろうといったこと、そこで、被告三藪が右車両の運転席に、亡由起子が右車両の助手席に、それぞれ乗車し、被告三藪が右車両を運転進行させ右事故現場に至った際、右事故が発生したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(3) 右認定各事実を総合すると、本件事故は所謂好意同乗の場合に該当するというべく、この場合は、右認定にかかる諸般の事情を総合し、信義則、損害の公平な負担の観点から、亡由起子の本件損害額を三〇パーセント減額するのが相当である。
右減額後の同人の右損害額は、金三一八六万七八四三円となる。
よって、被告三藪の抗弁は、理由がある。
2 相続関係
<証拠>によれば、原告優は亡由起子の子であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定事実に基づけば、原告優は、亡由起子の本件損害金三一八六万七八四三円の賠償請求権を相続したというべきである。
3 原告要次・同信子分
<証拠>によれば、原告要次・同信子は、亡由起子の父母であること、原告要次は、原告優の後見人であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(一)原告要次分
(1) 葬儀費用 金一〇〇万円
<証拠>を総合すると、原告要次が亡由起子の葬儀費用を支出したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下、本件損害という。)としての葬儀費用は、金一〇〇万円と認める。
(2) 慰謝料 金三五〇万円
前記認定の本件事実関係に基づくと、原告要次の本件慰謝料は、金三五〇万円と認めるのが相当である。
(二)原告信子分
慰謝料 金三五〇万円
原告信子の本件慰謝料も、原告要次の場合と同じ理由に基づき、金三五〇万円と認めるのが相当である。
三損害の填補
請求原因4中原告優が本件事故後自賠責保険金金二五〇〇万一六〇〇円の支払いを受けたことは、当事者間に争いがない。
しからば、右支払金金二五〇〇万一六〇〇円は、本件損害の填補として、前記認定にかかる同人の本件損害金三一八六万七八四三円から控除されるべきである。
右控除後の右損害額は、金六八六万六二四三円となる。
四弁護士費用 原告優分金七〇万円 原告要次分金四五万円 同信子分金三五万円
請求原因3(四)中原告らが本訴提起のため弁護士である原告ら訴訟代理人に訴訟委任したことは、当事者間に争いがない。
しかして、前記認定の本件全事実関係に基づくと、本件損害としての弁護士費用は、原告優につき金七〇万円、同要次につき金四五万円、同信子につき金三五万円と認める。
五結論
右認定説示を総合すると、原告らは、被告三藪に対し、原告優において本件損害金七五六万六二四三円、同要次において同損害金四九五万円、同信子において同損害金三八五万円及び右各金員に対する本件事故日の翌日であることが当事者間に争いのない平成元年六月一〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める各権利を有するというべきである。
第二原告らの被告保険会社に対する各請求関係
一請求原因2(二)(1)の事実は、当事者間に争いがなく、被告三藪の原告らに対する本件損害賠償義務の内容は、前記認定説示のとおりである。
二そこで、被告会社の抗弁(1)(本件免責約款による免責)について判断する。
1(一)抗弁事実(a)中亡由起子が本件事故当時被告三藪と同棲生活を送っていたこと、同(b)の事実は、当事者間に争いがなく、亡由起子の右事故当時における稼働状況、被告三藪との生活場所等は、前記認定のとおりである。
(二)<証拠>を総合すると、被告三藪と亡由起子は、本件事故の約五年前から、前記場所において二人だけで同棲生活を送っていたこと、同人らの生活は、同人らが前記勤務先から得る収入全体で維持されていたこと、右両名は、本件事故当時未だ婚姻届をしていなかったが、近々右届をする意思を持っていたこと、被告三藪は、亡由起子を自分の妻と認識しており、右事故時管轄警察署での取調べにおいても、亡由起子のことを内縁の妻と称していること、被告三藪は、亡由起子の父母である原告要次・同信子とも行き来があったことが認められ、<証拠判断略>。
(三)右認定各事実を総合すると、被告三藪と亡由起子とは、本件事故当時、社会的事実としての夫婦生活共同体を形成していた、即ち、内縁関係を結んでいたと認めるに十分である。
右認定説示に反する、原告らのこの点に関する主張は、当裁判所の採るところでない。
2 そこで、本件免責約款中の配偶者に内縁関係上の配偶者が含まれるか否かについて検討する。
(1) 本件免責約款中の配偶者には、内縁関係上の配偶者も含まれると解するのが相当である。
その理由は、次のとおりである。
(a) 現行法の下において、内縁関係にも、公益上支障がない限り、法律上の夫婦に適用される規定を準用しこれと同等に保護すべきであると解されている。
即ち、民法を例にとれば、法律上の夫婦間の身分に関する諸規定は、身分関係の画一的客観的確定等の公益上の要請から、内縁関係上の夫婦に適用されないが、財産的効果に関する諸規定(同居・協力・扶助の義務、共同生活費の分担義務、日常家事債務の連帯責任、財産共有の推定等)は、内縁関係にも準用されている。
しかして、任意保険において保険責任を免責にするか否かは、財産的効果に関する問題であるから、本件免責約款の解釈においても、法律上の配偶者と内縁関係上の配偶者とを同等に取扱うのが合理的である
(b) <証拠>によれば、自動車保険約款一章三条(被保険者の範囲を規定)は、被保険自動車を使用または管理中の記名被保険者(保険証券記載の被保険者)の配偶者を被保険者とする旨定めて任意保険による担保の範囲を拡大していること、記名被保険者の配偶者を被保険者として保護するのは、配偶者が記名被保険者と身分的経済的に同一体であり、一般に被保険自動車の使用頻度も高いと考えられているためであること、この点では、法律上の夫婦と内縁関係の夫婦とで特段の差異はないので、右条項の配偶者には内縁関係上の配偶者も含むと解されていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
しかして、任意保険約款における配偶者なる文言は、右約款全体を通じて整合性をもって解釈せねばならないから、本件免責約款における配偶者についても、右約款三条の配偶者と同じく、内縁関係上の配偶者をも含むと解するのが相当である。
(c) 本件免責約款の設定根拠は、被害者と直接の加害者である運転者との関係において他人性が希薄であること及びこのような場合には現実には損害賠償請求がなされず、経済共同体としての家庭内で問題が処理されるのが通例であることにある。
したがって、仮に、右約款三条にいう配偶者には内縁関係上の配偶者を含むが、右免責約款にいう配偶者には、これが免責約款であるから被保険者に有利に内縁関係上の配偶者を含まないと解釈するならば、右解釈は、右免責約款の右設定根拠に全く反することになり、約款の解釈として、右約款三条の配偶者と右免責約款の配偶者とを別異に解することは妥当でないというべきである。
(d) 確かに、例えば、労働者災害補償保険法一六条の二は、内縁関係上の配偶者を含む趣旨を明定している。
しかしながら、法律婚主義を採る現行法制の下においては、右法条のように法律をもって明示する場合と異なり、いわば私人間の約款である保険約款において右法条と同一の規定を設けることは妥当でない。
したがって、本件免責約款中の配偶者に内縁関係上の配偶者が含まれるか否かの問題も、専ら保険約款の解釈として、その合理的解答を追求せざるを得ない。
そして、右免責約款中の配偶者には内縁関係上の配偶者も含まれると解釈するのが右合理的解答であることは、以上の説示から明らかである。
3 右認定説示から、被告保険会社は、本件免責約款に基づき、原告らに対して本件保険金の支払義務を免れるというべきである。
よって、被告保険会社の抗弁(1)は、理由がある。
第三全体の結論
以上の全認定説示に基づき、原告らの被告三藪に対する本訴各請求は、右認定の限度でそれぞれ理由があるから、その範囲内でそれぞれこれらを認容し、その余は、いずれも理由がないから、それぞれこれらを棄却し、原告らの被告保険会社に対する本訴各請求は、いずれも全て理由がないから、いずれもこれらを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官鳥飼英助)
別紙<省略>